伝統的な西洋建築を見ると必ずと言っていいほど「柱」が登場します。
圧倒的な存在感を放つ柱。その柱が複数並ぶと「列柱」と呼ばれ、列柱を英語でオーダー”order”と呼びます。そしてオーダーにいつくつかの様式に分類され、これをオーダー様式といいます。
オーダー様式は西洋建築の核心的な部分で、建築に対する考え方や美の表現などあらゆる西洋建築の起点はオーダー様式にあると言っても過言ではありません。
オーダー様式を知ることで西洋建築が最重要視している「プロポーション」という考え方を理解できるようになります。もしあなたが輸入住宅を建てようとしていて、家に柱を取りつけるのでしたらオーダー様式とプロポーションは絶対に知っておいて欲しいと思っています。
参考:【施主必見】輸入住宅好きが知っておきたいプロポーションの知識
なぜなら、オーダー様式を理解して建てられた柱は圧倒的に美しくデザイン的価値をとても高めてくれるからです。(残念ながら日本ではオーダー様式を無視した輸入住宅があふれています…)
オーダー様式を知ってよりよい輸入住宅づくりに役立てましょう。
目次
西洋建築にとってオーダーはどんな存在なのか
By Unknown author, scan by sidonius 16:34, 7 November 2006 (UTC) – Meyers Kleines Konversationslexikon. Fünfte, umgearbeitete und vermehrte Auflage. Bd. 1. Bibliographisches Institut, Leipzig und Wien 1892., Public Domain, Link
柱は西洋建築のすべての基準
西洋建築において「柱」は特別な存在です。それはなぜかというと、建物のサイズ設計は柱、特に柱の「直径」を基準にして設計されるからです。
柱の直径をもとに柱の高さが決まります。(上図)
つぎに、柱の高さを基準に台座や梁(エンタブラチュア)のサイズが決まり、屋根の大きさが決まり、建物全体の大きさが決まっていくのです。このように西洋建築ではモノとモノのサイズの対比、つまりプロポーションが絶対的に重要視されているのです。
ですから建物のプロポーションを逆算していくと柱の直径にたどりつくのです。
柱を表すコラム”column”と列柱を表すオーダー”order”
ところで柱のことを英語では”コラム(column)”と呼びます。(発音はコラムというより、カラムの方が近いです。)
columnは縦の列を意味する単語で、例えばエクセルでは「行」のことを英語でrowと言い、「列」はcolumnと言います。また、新聞など紙面上でコラムと言った場合はちょっとした記事や評論が書かれていますが、これはもともと縦長の欄に書かれていた記事や評論があってそれをcolumnと呼んでいたことがきっかけのようです。
そして柱(column)が複数並んでいる状態を、列柱と呼びます。
列柱は英語で”オーダー(order)“です。
オーダーというと「注文」というイメージが涌きがちですがオーダー”order”の最も核心的な意味は「順序」「秩序」です。
注文という意味のオーダーの場合、注文→受注→作成→完成→提供 のように注文という動作が一連の決まった流れ、つまり「順序」の起点を表す単語として使われます。
また”order”には軍隊という意味もあります。この場合は「秩序」という意味合いがしっくりくるでしょう。整然と規律良く並んでいる様はまさにorderです。
さて、西洋建築の場合のオーダー(order)は、コラム(column)が整然と並んでいる様からそう呼ばれています。コラムとオーダーは建築を語る際にどちも良く使われる単語ですが、ついごっちゃになりがちです。どちらも大きな差はありませんが、orderはいわゆるcolumnの複数形のようなものです。またorderという場合は、柱そのものよりもその他の部分との関連性も示していることが多いようです。この機会にぜひ覚えておきましょう!
オーダーには様々な様式があります。
様式によって人に与える印象が違いますし、プロポーションが異なります。コラム・オーダーは西洋建築のすべての基準です。この基準を知らないでデザインを決めるとなんか不格好なデザインだな…ということになりかねません。輸入住宅を建てる上でヘンテコなプロポーションの設計を避けるためにも是非知っておいて欲しい知識です。
ヒューマン スケールに基づいたプロポーション
柱は人体のプロポーションを表現しています。
例えばドーリア式は他の柱と比べ太く柱の太さを1としたときの高さは7~8です。これは屈強な男性のスタイルを表現しているといわれ、柱の装飾も比較的少なく力強くたくましい印象の柱です。
一方女性を表現しているイオニア式はドーリア式と比べて細く、柱の太さを1としたときの高さは8~9です。また柱頭(柱の上部)の装飾は曲線的でより装飾的で優しく柔らかい印象を与えています。
主要な5つのオーダー様式
5つの主要なオーダー様式。左から、トスカーナ式、ドーリア式、イオニア式、コリント式、コンポジット式
オーダーには主要とされる5つのオーダーがあります。
- トスカーナ式 Tuscan order
- ドーリア式 Doric order
- イオニア式 Ionic order
- コリント式 Corinthian order
- コンポジット式 Composite order
このうち、トスカーナ式とコンポジット式は古代ローマで考案された様式で、ドーリア式、イオニア式、コリント式は古代ギリシアで考案された様式です。
古代ギリシアで考案された3つの様式は、その後誕生したローマ帝国でローマ式に変化したため、ギリシア式とローマ式にさらに細分化されることがあります。
ちなにみにオーダーを5種類に規定し、かつ建築の絶対美としたのはルネサンスの建築家たちでした。古代から5種類に規定されていた訳ではなく後世に規定されたということです。
1.トスカーナ式 Tuscan order
バチカン サンピエトロ大聖堂
トスカーナ式は古代ローマに端を発したたと言われるオーダー様式です。5つの主要オーダーの中で最もシンプルな見た目をしています。
柱の直径と高さの比率は1:7
トスカーナ式の柱の直径と高さの比率は一般的に1:7です。これは5つの主要オーダーの中で最も太く、どっしりとした印象を与えます。
最もシンプルなデザイン
トスカーナ式の柱は最もシンプルなデザインです。柱身に溝(fluting)は彫られておらず、凹凸のない表面に仕上げられます。柱頭にはアストラガル(astragal)というモールディングがついていますが、アストラガルは平坦な面が続く場所でスパイスを与える役割があるモールティングですが、さらに上部の柱頭を見ても基本的には曲線と直線のみのモールディングで装飾されたておりシンプルな美しさが魅力の装飾となっています。
By Diderot et d’Alembert with text and arrow added by me (Mharrsch) – https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/6a/Classical_orders_from_the_Encyclopedie.png, Public Domain, Link
5つの柱の中で最もシンプルな柱礎「ベース」デザイン
柱の下部を「柱礎」と言い、英語では”base“と呼びます。
トスカーナ式のベースはやはりシンプルで、トーラス”torus”という半円形に突出したモールディングで装飾されています。シンプルですがその分トーラスの存在感が強く、どっしりとした重たい建物を支えている太いトスカーナ式の柱、その最下部で最も重量に耐えている様を感じます。
2.ドーリア式 Doric order
unknown engraver – <span class=”plainlinks”><a class=”external text” href=”https://en.wikipedia.org”>en.wikipedia</a></span> からコモンズに移動されました。 Original source was an engraving from A. Rosengarten, A Handbook of Architectural Styles, NY, 1898, パブリック・ドメイン, リンクによる
ドーリア式は古代ギリシアに端を発したといわれているオーダー様式です。いわゆるギリシア神殿でよくみられる様式となっています。トスカーナ式と違い柱身に溝が彫られています。他にも溝が彫られている様式はありますが、ドーリア式の溝は他の様式よりも溝の数が少なく、溝と溝の境界が山型に連なっているのが他の様式にない特徴です。「荘重」と表現される堂々とした佇まいが特徴です。
ギリシア式とローマ式
ドーリア式にはギリシア式の柱とローマ式の柱があります。ギリシア式は最古の様式でローマ式はその後古代ローマに取り込まれ変化した様式です。
柱の直径と高さの比率は様々。
特にギリシア式のドーリアオーダーは、柱の直径と高さの比率にかなりバリエーションがあります。かなり寸胴な柱からトスカーナ式と同じ1:8のものもあり多様性が認められます。一方ローマ式では一般的1:8の比率がほとんどです。
トスカーナ式と違いドーリア式には必ず溝が彫られています。溝の数は20個となっていて、ドーリア式でのみで見られる溝の数です。また、溝と溝が連続してくっついているため山形のとがった境界線を作っています。これも他のオーダー様式にはない見た目に違いを与える要素となっています。
ギリシア式には礎盤がない
By Ansgar Koreng / CC BY 3.0 (DE), CC BY 3.0 de, Link
ギリシア式の柱には礎盤がなく、直接床部分と接しています。これはどのオーダーを見ても他にない形です。一方ローマ式には礎盤がありよりスタイリッシュな見た目になっています。
個人的にはギリシア式のドーリアオーダーは他の様式にない力強い佇まいと飾り過ぎない美しさが魅力で、西洋建築上級者様の自宅に是非検討していただきたいイチオシオーダーです。
3.イオニア式 Ionic order
女性的なオーダー
イオニア式オーダーは柱頭のくるっと巻かれた「ヴォリュート」が特徴のオーダーです。巻かれた渦巻模様は子宮をモチーフにしているともいわれ曲線的なしなやかさが女性らしさを表現しています。
By en:Julien David Le Roy (1724-1803), published in Les ruines plus beaux des monuments de la Grèce (1758) – Ruins of the Most Beautiful Monuments of Greece http://www.artlex.com/ArtLex/ij/images/ionc_leroy.lg.jpg, Public Domain, Link
図の上がギリシア式、右下がローマ式
イオニア式はヴォリュートの形からギリシア式とローマ式に分けることができます。ギリシア式はヴォリュート上部がしたに垂れ下がって曲線になっているのに対し、ローマ式は直線になっています。またギリシア式はヴォリュートが円系部分がローマ式より大きめのことが多いようです。
イオニア式には柱身に溝があるタイプとないタイプがあります。溝があるタイプは24本の半円形に抉れた溝が彫られており、溝と溝の間に細い平面が設けられています。
柱の直径と高さの比率は1:8~9
イオニア式オーダーは女性のプロポーションをイメージした柱のためより細身となっています。オーダーの柱の太さと高さの比率は1:8~9です。8であることは比較的少なく、ローマ式は1:9であることが多い印象です。
柱礎「ベース」は”attic base”
By Svante.tiren – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
ベースの部分は上下のトーラス”torus”とそこに挟まれたスコティア”scotia”で構成されるアティックベース”attic base”であることが多いです。これはトスカーナ式、ドーリア式にはなかったベースの形状でイオニア式以降のコリント式、コンポジット式でも採用されるベースの形となっています。
4.コリント式 Corinthian order
パブリック・ドメイン, リンク
明治生命館
コリント式オーダーは、ドーリア式、イオニア式とならぶギリシャ発のオーダー様式で3つの中では最も後に考案された様式です。
アカンサス
特徴はなんといっても柱頭のデザインで、アカンサスという植物の葉のモチーフや蔓のデザインなどが複雑で繊細に彫り込まれた華やかなオーダー様式です。
コリント式のこのデザインは、古代ローマの建築家ウィトルウィウスが、幼い少女の墓に供物の籠が残され繁茂したアカンサスの葉が籠にかぶさっている光景を見たときにインスパイアされたと記録されています。
柱の直径と高さの比率は1:10
コリント式の柱の太さと高さの比率は1:10で、主要の5オーダー様式の中ではコンポジット式と並んで最も細身の柱です。
柱はその細身から、少女をイメージしたものと言われています。
コリント式の柱身と柱礎
コリント式の柱身には溝が彫られているものと、彫られていないものの2つがあります。柱に溝がある場合の溝の数はイオニア式と同様、24本彫られています。コリント式はもともと細身の柱なので溝があるとより一層細く見えます。
柱礎もイオニア式同様アティックベース”attic base”であることがほとんどです。一部、上の写真のように派生した形状の柱礎”base”である場合もあります。
5.コンポジット式 Composite order
By József Rozsnyai – Own work, CC BY-SA 4.0, Link
By Paolo Villa – File:10_2023_Basilica_di_Santa_Maria_degli_Angeli_e_dei_Martiri,_Roma,_Italia_-_soffitto_cassettoni_lacunari_lesene_semicolonne_composito_tardo_barocco_angeli_tripartizione_sesto_ribassato_-_Photo_Paolo_Villa_FO232008.jpg, CC BY 4.0, Link
コンポジット式はローマで生まれたオーダー様式で、5つのオーダーの中ではもっとも後になってから作られて様式です。古代ギリシアでは存在していない様式で、古代ローマでのみコンポジット式のオーダーが現存しています。
コンポジット様式はイオニア様式の柱頭にあるヴォリュートと、コリント式の柱頭にあるアカンサスの葉のデザインを組み合わせたデザインになっていてコリント式と同等かそれ以上に繊細で豪華な作りとなっています。
コンポジット式の柱身や柱礎
コンポジット式の柱身や柱礎はコリント式と同じです。柱の太さと高さの比率は1:10、溝がある場合もあり、その場合の溝の数は24、柱礎はアティックベース”attic base”かその派生形です。
溝の有無
トスカーナ式を除いた4つのオーダーには溝(フルーティング)”fluting”が施されていることがあります。溝がある場合次の効果が期待できます。
溝”fluting”の効果
- 柱をより高く見せる
- 装飾性を高める
- 石材の継ぎ目を目立たせなくする
柱をより高く見せる
ファッションでは服に縦のラインが入っているとよりスラっと見え背が高く見えるとよく言われます。これは縦のラインが強調されてそれを着ている人もスラっと見える錯覚を利用したものです。この効果はオーダーに溝が施されたときにも同じ効果があります。
ただでさえ巨大な柱ですが、そこに溝が施されることによって一段と縦のラインが強調されるためより高く見せることができます。これによって柱の威厳を高めることができます。
装飾性を高める
溝があることによって装飾性が高まります。溝は均一の幅で彫られており一本一本はシンプルな線ですが、それが何本も集まって繊細なラインを形成します。
シンプルな直線や曲線を反復させるのは西洋建築でよくみられる装飾方法です。
溝の彫り方は直線ですが、上の写真のように上下で彫りの凸凹を反転させたりするなど少ないながら彫り方のバリエーションが存在します。
石材の継ぎ目を目立たせなくする
これは溝彫りの副次的な効果ではありますが、溝彫りすることによって石材の継ぎ目を目立たなかくなります。
柱の石材は柱を複数個に分解して積み上げる構造をしています。ギリシア建築ではこの継ぎ目が恐ろしいほど正確にできていてまさに紙一枚も入る隙間がなかったと言います。
一方ローマ建築では正確さよりも建築物として問題なく積み上げられることを重視していたため比較的石材同士の誤差が生じていたと言われています。(とはいえ、かなり正確です)
いずれにしても、別々の石材を繋ぎ合わせて柱を作っている以上その継ぎ目は目視で確認できます。そこで溝彫りです。溝があることでそのような水平方向にある微細な線よりも、圧倒的に縦の彫りが目立ちますから繋ぎ目が気にならなくなります。
エンタシス(entasis)について
エンタシス”entasis”とは柱が下部から上部にかけて細くなった形状のこと。
気づきましたか?今まで見てきたすべてのオーダー様式は例外なく下部から上部にかけて徐々に細くなった形状をしています。
明治生命館 (東京都 千代田区)
このエンタシスは柱の太さがより太いトスカーナ式やドーリア式では顕著にみられます。
では、なぜ柱の上部が細いかというと目の錯覚を補正するため、です。
柱が上部から下部まで同じ太さの柱が立っていると、見上げた時に柱の太さが違って見える錯覚がおきます。これが不安定な感覚につながるため、これ補正するためにあえて柱の太さが上部にかけて細くなるエンタシスが施されるます。
一般的に柱は最下部から高さ1/3までは同じ太さです。そして1/3から上部にかけて徐々に細くなっていきます。下部の柱の太さを1としたとき、最上部の最も細い部分の太さは5/6と細くなります。
エンタシスのある柱を選ぶ
エンタシスはオーダーに必ず見られる形状ですが、輸入住宅でこれを再現できていない柱をしばしば見かけることがあります。これは本来柱として用いるべき建材ではないものを柱に転用している可能性があります。柱身は単純なパイプの形状ではありません。
エンタシスがない柱はやはりどこか工業的で不安定に見えます。この違いは意識せずとも確認できるものです。エンタシスがある柱なのかを必ず確認しましょう。
付柱(pilaster)とは
東京駅 (東京都 千代田区)
付柱(つけばしら)とは、壁面に貼り付けられている、もしくは埋め込まれている装飾用の柱です。基本的には装飾や付柱の上にあるものを支えているかのうようなビジュアル的な効果を期待して取り付けるもので、力学的に重量を支えているわけではありません。
付柱はオーダーの様式やエンタシスも再現しますので視覚的効果の点では通常の柱と何ら変わりありません。
典型的な付柱は角形(角柱)で取り付けられます。円柱の柱だと奥行感が出過ぎて装飾過剰に見えるため、付柱を装飾に取り入れるのであれば角形がよいでしょう。
「エンタブラチュア(entabrature)」とは
西洋建築において柱をコラム”column”、列柱をオーダー”order”と呼ぶのに対して梁はエンタブラチュア”entabrature”と呼びます。
正確には梁ではなく、水平の構築物です。というのも木造建築のように水平に張って屋根など上に重なるものの重さに耐える部材ではなく見た目的な要素であるためです。
エンタブラチュアをアーキトレーヴ、フリーズ、コーニスの3つが組み合わさってできています。
アーキトレーヴ(architrave)
アーキトレーヴはエンタブラチュアの下側にあって、柱に支えられ、上にあるフリーズを支えている部分です。デザイン上は水平の線で構築されることが多く、他の部位に比べて飾り気はないものの実直に重さに耐えている印象を持たせています。
フリーズ(frieze)
フリーズはエンタブラチュアの中央にあってアーキトレーヴに支えられ、コーニスを支えている部位です。
フリーズの役割は「装飾」と「表現」です。上の写真では植物のレリーフで飾られていてフリーズがエンタブラチュアの中で華やかさを表現しています。他にも人物の彫刻や紋章などをあしらうこともあります。
ドーリア式のフリーズ
ドーリア式のフリーズは特徴的で、必ずトライグリフ”triglyphs”とメトープ”metopes”で構成されています。
トライグリフはローマ数字のⅢに見える部分です。これはかつて木造建築だったときに梁の小口がこのように見えており、その部分を石造りでも意匠として残しているからと言われています。
メトープはトライグリフに挟まれた部分で上の写真では人物や神話に登場する者の彫刻がありますが、彫刻がなくシンプルな平面である場合も多くあります。
イオニア式・コリント式のフリーズ
イオニア式とコリント式では平面+装飾でできたフリーズの他に、プルヴィネイテッド フリーズ”pulvinated frieze”を見ることがあります。これは中央が出っ張って膨らんだ形状のフリーズで、上から押しつぶされたような柔らかさと、それでも重さに耐えている重量感を印象づける意匠となっています。
(実際には石でできているにも関わらず重さに耐えてぐにゃっとして見るのが私的には好みです。)
コーニス(cornice)
コーニスはエンタブラチュアの上部にあって「華やかさ」を表現する部位です。
コーニスは通常フリーズに近い下から順に主に、ベッドモールディング、デンティルモールディング、サイマ(サイマレクタ)で構成されています。
コーニスは屋根(ペディメント)を支える場合もありますが、そうであっても柱やアーキトレーヴ、フリーズのように下段にある訳ではなく、重さを支える役割から解放されて華やかであることを演出します。特に最上段のサイマ(サイマレクタ)はターミネイトモールディング”terminating moulding”とも言われる軽やかな表現をするモールディングで柱礎から続く重量感ある一連のオーダー様式を締めくくっています。
エンタブラチュアと柱の取り付け位置
ギリシャ式とローマ式の違い
同じ様式でも最初期にギリシアで生まれた様式がローマに至る中で独自の様式に変化したものがあります。
オーダーでの違い
ドーリア式は礎盤を持たないものをギリシア・ドーリア式、礎盤をもつものをローマ・ドーリア式として区別します。ギリシア・ドーリア式はローマ・ドーリア式と比べ柱が太く寸胴なことが多くエンタシスも強く効いています。
イオニア式では、柱頭中央が下方に垂れ下がって弧を描いた形をしたギリシア・イオニア式と平坦なローマ・イオニア式があります。イオニア式は渦巻き模様のヴォリュートが特徴ですが、ギリシア式ではヴォリュートが比較的大きくローマ式は小さいといった傾向があります。
By en:Julien David Le Roy (1724-1803), published in Les ruines plus beaux des monuments de la Grèce (1758) – Ruins of the Most Beautiful Monuments of Greece http://www.artlex.com/ArtLex/ij/images/ionc_leroy.lg.jpg, Public Domain, Link
上・中:ギリシア・イオニア式 下:ローマ・イオニア式
エンタブラチュアでの違い
ドーリア式はフリーズにトライグリフ”triglyphs”を用いています。ドーリア式のフリーズは角のトライグリフがどの位置にあるかによって、ギリシア式かローマ式かに分かれます。
この図はギリシア・ドーリアです。トライグリフが隅にありますね。全体を見渡すと↓の写真のようになります。
注目してほしい点は、左右両端の柱です。
良く見てください。
左右両端以外の柱はトライグリフの真下に左右対称で位置していますが、左右両端の柱は確かにトライグリフの下にあっても、位置は左右対称ではありません。
左端の柱はトライグリフの対して中央よりに位置しているのがわかります。同様に右端の柱も中央よりに位置しています。つまりどういうことかというと、
左右両端の柱とエンタブラチュアの関係は左右対称ではないということになります。
この結果、両端の柱とその隣の柱との間隔は、その他の柱間隔と比べ、狭くなり対称性に欠くことになります。
ローマ・ドーリアでは、この柱の間隔が均一にならない問題をトライグリフを角に置かないという配置によって解決しました。
赤枠がローマ式におけるトライグリフの配置です。
ギリシア式と違って角にトライグリフを配置していません。こうすることによってトラグリフの中央線が柱の中央線と重なり左右対称にならない課題を解決しています。(ちなみにドーリア式であっても礎盤があるのがローマ・ドーリア式の特徴です。)
まとめ
伝統的な西洋建築には必ずといっていいほど柱が用いられています。
柱”コラム・column”が複数ならんでいることを列柱”オーダー・order”と呼び、柱のプロポーションとオーダー様式は西洋建築におけるあらゆる考え方の起です。
オーダー様式には古代ギリシアに端を発した3つの様式:ドーリア式、イオニア式、コリント式があります。加えて古代ローマに端を発した2つの様式:トスカーナ式、コンポジット式があり、合わせて5大様式と呼ばれています。
様式ごと柱の太さに対する高さのプロポーションや溝の有無、溝の形状、柱頭、柱礎部分のデザインなど様式による違いが認められます。
エンタブラチュアはオーダーと必ずセットで語られる梁のように水平方向の部材で、様式の一部です。エンタブラチュアも柱と同様様式事の違いが認められます。
また、様式にはギリシア式とローマ式に細分化することができさらに違いを区別しています。
いずれにしても、各オーダーにはプロポーションの定義がされており、各様式で最も美しく見える比率が決まっています。決まっている、というと堅苦しくとらえる場合もありますが洗練されてこれ以上手の加える必要がないと言うべきではないでしょうか。
日本の輸入住宅において柱のプロポーションはほとんどと言っていいほど無視されています。輸入住宅と言いながら、必要な場所に必要な高さの柱を用意しているにすぎません。そこには何の美学もありません。
試しに輸入住宅と呼ばれている写真に写っている柱の様式とプロポーションを確認してください。そもそもエンタブラチュアがあるかどうかも確認してみてください。
日本の輸入住宅はそのどちらも残念なものばかりです。これはつまり、西洋風な要素だけを取り入れて、本質的には西洋建築の考え方を理解していないということに他なりません。繰り返しになりますが、あらゆる美の起点である「柱」を見れば西洋建築に対する理解度がわかりるのです。
輸入住宅を建てる方にはこの柱のプロポーションの知識はぜひとも知っておいて欲しいと思っています。なぜならその通りに建てるだけで世代を超えて理解しうる美を秘めることができるからです。黄金比は世代ごとに変わるものではありません。そういったデザインを有した建築が時を超えてる、本当の意味で価値ある住宅なのではないでしょうか。
私自身、輸入住宅を建てて後悔しているところはプロポーションを考慮しなかった部分で、今でも満足に感じている部分はプロポーションを悩み抜いた部分です。
人生二度なし。素敵な輸入住宅ライフを!