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残念な輸入住宅を建てないために
せっかく建てた輸入住宅なのに、どことなく輸入住宅感がない…海外のモチーフをふんだんに取り入れているのになんとなく垢抜けない…そんな家がたくさんあります。
そんな家に共通して欠落しているのが「プロポーション」の考えです。
私は実際に輸入住宅を建てて5年が経ちますが、今でも満足しているのはプロポーションにこだわった場所です。逆に、失敗したな…と後悔する部分はプロポーションを検討しなかった場所が多いです。
これから輸入住宅を建てる人も、輸入住宅にいつか住んでみたいと夢抱いている人も必見のデザインのプロポーションの知識について解説していきます。これを知っているか知らないかで輸入住宅のデザインの完成度がグっと変わること間違いなしです。
知っている人は少数派!?輸入住宅デザインの基礎
えっ?プロポーションの知識って言われても、ホームメーカーさんや工務店の方、デザイナーさんが提案してくれるんだから施主がそんなに知っておく必要があるの?って思う人もいるかもしれません。
ズバリこれから解説するプロポーションの知識についてちゃんと理解していて、さらに理解に基づいて家を建てているホームメーカーさんや工務店さんはごく僅かと言っていいでしょう。
なぜそう言えるかというと、ヨーロッパやアメリカで見る本物の西洋建築と日本で建てられている輸入住宅を見比べたときに、デザインのどこかが違うんだよな…と感じる写真を頻繁に見かけるのが何よりの証拠です。簡単に言ってしまえば不格好なデザインということです。そういった家をよく見てみると後ほど解説する「計算」がされていないものばかりです。
自分の家を建てた後に、「なんかバランスが悪いな…」と感じてしまっては、それは後悔に繋がりそうですよね。そうならないためにも、施主が作り手に「こうデザインしてください!」とハッキリ言える知識を持っておきましょう!
そんな知識を順番に解説していきます!
プロポーションとは美である
結論から言うと、輸入住宅を建てる人や輸入住宅に興味があるって人に知っておいて欲しい知識は
『プロポーション』です!
プロポーション?? あぁ、知ってる知ってる。スタイルの良さを表す言葉でしょ。
そんな声が聞こえてきそうです。
はい、だいたいそんな感じです(笑)
ですが、ここでいうプロポーションは別々の物体が組み合わさって存在しているとき、どういう比率で組み合わせるとより美しく見えるのかという比率のことです。
美はサイズのことではない
例えば、人のスタイルの良さでいえば
頭のサイズ:1 に対して、身長:8。つまり「8等身」という言葉が示すようにモノとモノの比率を表すことがここでいうプロポーションのことです。
では頭のサイズは変わらないとして、身長が5、つまり5等身になった場合8等身と比べてより美しいと感じるのでしょうか?はたまた、10等身ではどうでしょうか?…等身が小さすぎても大きすぎても美しいとは言えなさそうですね。
建物でいえば、建物の高さと幅はどういう比率が最も美しいのか?柱の太さと高さの比率は?柱と柱の間隔はどれくらいが最も美しいのか?…パルテノン神殿があった紀元前400年には既にそういった各部分の最も美しいプロポーション研究がなされていてました。プロポーションは紀元前の大昔から追求され続けているのです。
Eusebius – 投稿者自身による著作物, CC 表示 3.0, リンクによる
建築においても古代の偉人たちは、どういう組み合わせで柱や梁を構成すると最も人に美しいと感じさせられるのか?柱の太さと高さの比率は?…こんな議論を真剣にしていました。その最たる成果が「黄金比」の発見です。
黄金比は 1 : 1.618…でよく表されます。
なぜこの比率なのか細かい計算はさておき、この比率がもっとも調和がとれた、安定した美しい比率とされています。写真のパルテノン神殿は高さ1としたときに、幅がおよそ1.618の比率で造られています。(諸説あります)
さらに、柱の高さは柱の太さ1に対して〇〇、梁の高さは△△、柱と柱の間隔は××…etc
このように紀元前の昔から美しい建物とはどんなプロポーションなのか、ということを鬼のように議論しガチガチの計算で固めて実際に建てて競い合ってきた歴史があるため、あらゆる西洋建築は洗練されたプロポーションの原理原則を守って建てられていると言えるでしょう。
西洋建築を見て「美しいな」「きれいだな」「かっこいいな」と感じられるのはこういった計算に裏打ちされたプロポーションがあるからなのです。
ちなみにプロポーションはあくまで比率のことであって、サイズのことではありません。大きければ良い、小さければダメということでは決してないのです。つまり建てようとしている家がどんなサイズのどこのパーツだろうと、プロポーションについて検討の余地があるということなんです!
プロポーションが語られる機会は少ない
By Kenneth C. Zirkel – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
一方現代はどうでしょうか。
家のスタイルは、フレンチカントリー風なのかイタリアンスタイルなのかそれとも…
床の部材は無垢にするのかタイルにするのか?何色にするのか?…
こんな議論は夢膨らんでとっても楽しいです。でも、プロポーションに言及する機会は限りなく少ないもしくはゼロではないですか?
ファッションに例えると、住宅におけるプロポーションはスタイルの良さです。床の部材を何にするか、壁紙はどんな柄でどんな色にするかなどと考えることは、言ってみれば「どんな服を着せるか」です。スタイルがいい人って、悔しいくらい何を着ても綺麗だったりカッコよかったりしますよね。ですから輸入住宅を建てる上でプロポーションはぜひ意識したいことの一つです。
すべては柱から考えはじめる
プロポーションは物と物のサイズの比率だとお伝えしてきました。
その基準になるものが柱です。
柱? いやいや…柱なんて部屋のなかに設置しないよ、という方が大半だと思いますが実際に柱を設置しなくても意識するべきです。もし柱を家の中に置くのであれば一層意識するべきです。
なぜなら
柱をイメージした部屋は圧倒的にプロポーションの美しい部屋になるからです。
それはなぜか?
先にお伝えすると、
- 家のテーマに合わせて柱とその様式を決める。
- 天井高から逆算して各種パーツの高さやサイズが自動的に決まる。
- 巾木の高さ、腰板の高さ、ドアの高さ、ケーシング、クラウンモールディングなど正しいサイズ感から選ぶことがきる。そして迷うことなく正しい高さ、位置に設置することがきるようになるから。デザインは柱の様式を参考にすることができるから。 です!
最後の各パーツの高さ、位置決めこそが重要なのです。これを感覚でやるとダサくなります。
このルールを守るだけで、あれこれ感覚で選ぶよりずっとプロポーションが整った部屋になるんです!!
柱の太さと高さのプロポーションは決まっている
F l a n k e r – 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, リンクによる
この図はイオニア式と呼ばれる柱を中心にスタイロベートと呼ばる床部分や梁、屋根を描いたものです。イオニア式は柱頭の装飾がくるっと巻いてあるのが特徴ですね。
柱の太さを「1」とした場合、イオニア式の柱の高さは「8」もしくは「9」と決まっています。(9のことが多い)それはなぜか?という疑問もわいてくるかもしれませんが、ここでは大昔から研究に研究を重ねた結果、多くの人から賛同を得られる8か9の高さが最も美しいと結論づけられたから。ということに他なりません。
現代を生きる私たちも同じ人間ですから、問いただして理論的に考える前に、感覚として整ったプロポーションだと感じていただけるのではないでしょうか。
ちなみに、詳しくは解説しませんがこの比率は人の体の部位の比率に応じているといわれています。ざっくり言い換えるとスタイルのいいモデルさんを柱に置き換えて考えている感じでしょうか。そりゃ美しく見えますわ。
柱の様式によってポロポーションは違う
イオニア式は柱の太さ1に対して、高さは8か9でした。
それ以外の様式ではどうでしょうか?
ここでは他の様式ごとのプロポーションをご紹介します。
画像引用元:BROCKWELL
左からトスカーナ式、ドーリア式、イオニア式、コリント式、コンポジット式の柱です。
いきなり5つも柱(オーダー)が登場して何がなんだか…と思うかもしれませんが安心してください!(笑)これが5大柱で、これ以外のものは基本的に登場しません。
参考:【西洋建築】オーダーってなに?柱の5つの様式と特徴ついて徹底解説
見てほしいのは柱の太さの描き方です。どの様式でも共通の太さで描かれていますね。左のトスカーナ式は背が低く、右のコンポジット式は背が高く見えますがどれも同じ太さで描いていますから、同じ高さの場合トスカーナ式はより太く、コンポジット式はより細いという見方が正しいです。
比率はどうでしょうか。中間のイオニア式は柱の太さ1に対して高さ8か9でした。(写真では9)
柱の様式別プロポーション
トスカーナ式は1:7、ドーリア式は1:8、イオニア式は1:8か9、コリント式とコンポジット式ははより細身で1:10です。
このように様式よってこれがベストだ!というプロポーションは決められています。ですから柱を設置する場合は単純にこのプロポーションで導入すれば問題ありません。
しかしながら、このプロポーションを無視して設置する場所の高さに揃えただけの輸入住宅は結構多くみかけます…。例えばドーリア式の柱は1:7ですが、これを無視して1:10、もしはそれ以上に細長い柱で設置されている住宅を見たことがあります。これはに非常に残念なことです。柱は西洋建築の中心です。それにも関わらずその意味を殺してしまっています。西洋建築の基礎を理解していないということに他なりません。
どの様式を選ぶべきか
柱は様式ごとに部屋に与える印象が異なります。
部屋に柱を設置しない方がほとんどだと思いますが、柱を設置しないとしても自分の家の様式はコレ、という仮想の柱を意識するとよいでしょう。なぜなら輸入住宅の醍醐味の一つ、「モールディング」は様式の影響を受けてチョイスされるからです。
例えばより太く装飾が比較的少ないトスカーナ式、ドーリア式はたくましい男性的な印象を与えます。一方、イオニア式も比較的装飾が少ないものの柱に彫り込まれた溝(fluting)が細くくるっとした柱頭の曲線が女性的な印象を与えます。
コリント式とコンポジット式はより装飾的で華やかな印象です。対応する梁のデザインも細かく凝ったものになります。
梁と土台
柱以外の部位はどうでしょうか。
先ほどの図で描かれているように、柱の高さを「4」としたときに、梁の高さは「1」と決められています。
つまり梁と柱は1:4です。
By Joanbanjo – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
さらにさらに、柱の下に台座(pedestal)を置く場合、台座の高さは柱の高さ「3」に対して「1」と決められています。
まとめると梁と柱は1:4、台座と柱は1:3という比率です。
この、梁~柱~土台のプロポーションは、あらゆる歴史的な西洋建築に共通のプロポーションといえます。
部屋にあてはめて考えてみる
さて、ここまで長々とプロポーションの説明をしてきましたがこのプロポーションをどうやって部屋にあてはめて考えていくか、について解説していきます。
引用元:THISisCarpentry
台座・柱・梁を上図の通り部屋の天井高にあてはめます。ここでは様式は図の通り「ドーリア式」を適用します。
そうすると、壁と天井に接する「クラウンモールディング」、チェアレールもしくは腰壁を設置する際の高さ、壁と床に接する「ベースボード」(巾木)のサイズは次の通りとなります。
詳しい解説は割愛しますが、次のように計算しています。
・柱の高さ=1とする。
・天井高=梁(1/4)+柱(1)+台座(1/3)
・クラウンモールディングは梁の3/7のサイズ
・ベースボードは台座の7/24のサイズ
クラウンモールディングが梁の3/7、ベースボードが台座の7/24になるのは別の記事で解説します!
クラウンモールディングとベースボード(巾木)のサイズは、日本の一般的な住宅と比べると大きいです。ですから、輸入住宅を建てる際はプロポーションに基づいてサイズ感を選択するのが良いでしょう。
また、逆にチェアレール・腰壁の高さはイメージよりだいぶ低いと感じるはずです。「チェアレール」「腰壁」という言葉からどうしても腰の位置の高さをイメージしてしまいがちですがあるべき高さはより低い位置です。見下ろす位置にチェアレール・腰壁があることによって空間の広がりを感じさせることができます。
まとめ
肝心なことは、あるゆるパーツのサイズはプロポーションによって決まるということです。
モールディングはプロポーションを抜きにしてデザインや好みだけで決めるべきではありません。チェアレールや腰壁の高さは腰の高さではありません。
プロポーションを押さえておくだけで部屋のスタイルの良さがグっと高まります。
今回基本的なプロポーションについて解説しましたが、このプロポーションに基づいて作られた輸入住宅は思いのほか少ないのが実態です。原因としては建てる側の人間がこの知識を知らないもしくは施主が知らない、もしくはプロポーションを軽視しているということが考えられます。ですが、輸入住宅を建てる以上このプロポーションを無視することは何のメリットもありません。
人生二度なし。後悔しない家に住みたいですね。
以上、プロポーションの話でした。