西洋建築が好きな人の中にはモールディングが好きな人も多くいると思います。歴史的な西洋建築は絶対と言っていいほどモールディングによる装飾がされています。
大胆で力強いモールディングがあったり、繊細に彫り込まれたモールディングもあったり、モールディングはその魅力の奥深さに事欠きません。
そんなモールディングについて知識を深めていきましょう!
モールディングの役割
西洋建築を西洋建築たらしめる要素としてモールディングは欠かすことができません。
モールディング(英moulding、米molding)とは、天井、壁、ドア、階段、家具など室内外のあらゆる場所に用いられてる立体的な装飾材のことです。モールディングの表面はカーブを描いたり、でこぼこしていたり、レリーフが彫り込まれていたりしていて、見る者に立体的な印象を与えると同時にフォーシャルポイントを作りだします。
写真:大阪市中央公会堂
モールディングの役割は、立体的な形で陰影を作り出しインテリアや家具、外装を光と影で装飾することにあります。その装飾が見るものの佇まいを堂々と見せたり、華やかに見せたり、豪華に見せます。
モールディングは基本的には単純な直線や曲線を複雑に組み合わせることによってできています。そしてその組み合わせを連続した面で展開することで空間に広がりを持たせ、立体感を持たせることができます。
直線と曲線の複雑な組み合わせとそれを反復させる手法は、あらゆる箇所で見られる西洋建築の本質的な装飾方法です。
モールディングとその種類
モールディングは、設置される場所によってさまざまな種類があります。代表的なものを見ていきましょう。
クラウンモールディング
クラウンモールディングは天井と壁に接するモールディングです。モールディングの花形とも言える存在感があります。クラウンモールディングは特に種類が豊富でどれも華やかなデザインのものばかりなので、いざ選ぶとなったらついつい悩んでしまいがち。(楽しい)
まずは間違ったサイズ選びをしないように注意したいですね。
チェアレール
チェアレールは壁に水平に装飾されるモールディングです。設置することによって壁面を上下にわけるフォーシャルポイント的な効果があります。
また、チェアレールの上下で違ったデザインにすることができます。例えば上側は壁紙、下側は腰壁などにすることで、お部屋のグレード感を高めることができます。
壁面というのはかなり単純で単色な面になりがちなので、部屋がシンプルすぎると感じた際のチェアレールの効果は大きいです。
一つお伝えしたい重要なことは、チェアレールを設置するべき高さは、腰の高さでも椅子の背もたれの高さでもありません。一部では天井高の1/3と言われますがこれもおススメできません。
参考:チェアレールの高さ
ケーシング
ドアや窓の回りを囲うモールディング。ケーシングを取りつけるとドアや窓の存在感が引き立ちます。ケーシングには見た目を向上させるだけでなく、壁や窓枠の隙間を埋めて気密性を高める役割があります。
ベースボード(巾木)
ベースボード(巾木)は壁と床に設置する部屋や家具の最下部のモールディングです。
他のモールディングと比べるとやや地味な見た目ですが、足元をキリっとさせることで安定感を持たせる効果があります。また、他のモールディングが装飾本位なのに比べ、機能的なモールディングでもあります。
輸入住宅に限った話ではありませんが、ベースボードがない部屋は掃除機や家具、子供のおもちゃがぶつかったりして、足元の壁は思った以上にダメージを受けます。シンプルモダンな家であってもベースボードだけはついていたりするのはこのためです。
輸入住宅のベースボードは日本の一般的な住宅に比べて高さのあるベースボードを選ぶのが基本となります。
参考:ベースボードの高さ
シーリングローズ(メダリオン)
シーリングローズ(メダリオン)は、シャンデリア等の照明器具が設置される天井に取り付けられるモールディング。ほとんどの場合円形でできていて立体的なレリーフで装飾されています。
シーリングローズが設置されると空間の中心がどこなのかが明確になります。たいていの場合はシーリングローズの下にシャンデリアが吊るされ、その下にテーブルが置かれるコンビネーションで空間が作られます。
このように空間の中心を作りますが、この中心が同時に部屋の中心でもあると一層整った印象になるでしょう。
シーリングローズは天井にあれど、存在感が強いので天井が低い場合は設置しないか、シンプルなデザインを選ぶとベターです。
コーベル
By Stub Mandrel – I took a photo with my phone., CC BY-SA 4.0, Link
コーベルはアーチの下やコーニス(梁の一部)に設置されるモールディングで、上にあるものを持ち上げているような力強い印象を与えます。一方で、よく植物のアカンサスの葉の模様が彫り込まれたり時には人面が彫り込まれたり、かなり個性的な印象があるモールディングです。
コーベル(コーベルに限らずほとんどのモールディング)は、構造上上にあるものを支えているわけではなく装飾目的で設置されます。
モールディングの形状
モールディングの形状には様々のバリエーションがあり、形の違いごとに名前がついています。代表的なものをあげていきます。
cavetto カヴェット
By Brunopostle at the English-language Wikipedia, CC BY-SA 3.0, Link
一般的なモールディングの形。四分円がえぐれた形をしている。
ovolo オヴォロ
By Brunopostle, at the English Wikipedia project, CC BY-SA 3.0, Link
ovoloは四分円~半円系の形をしたモールディング。力強さを表現しやすい。
cyma サイマ
By The original uploader was Brunopostle at English Wikipedia. – Transferred from en.wikipedia to Commons., CC BY-SA 3.0, Link
cymaはcavettoとovoloを組み合わせたモールディング。この形状はモールディングの最上部で使われることが多い。コーニスの最上部にあるcymaはcyamtionとも呼ばれる。華やかさを表現しやすい。
fillet フィレ
filletは直線で平面のモールディング。曲線が多いモールディングの中ではシンプルなモールディングだが複数の形を組み合わせるときに曲線部分のエレガントさを引き立てる重要な役割を果たしている。
torus トーラス
By Svante.tiren – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
柱の基礎部分に使わている二つのトーラス。間にはさまれているえぐれたカーブのモールディングはscotia(スコティア)。
半円のモールディングで柱のベース部分に良く用いられる。柔らかさとボリューム感がでるため連続する面をより立体的にし装飾性を豊かにします。
scotia スコティア
大きくえぐれた曲線を描くモールディング。cavetto(カヴェット)との違いは上下のえぐれの半径が異なるため上下非対称になる点。
ogee オージー
By Gampe – Own work, Public Domain, Link
ogeeはカーブする2種類のモールディングを組み合わせたS字のことをいいます。クラウンモーディングで多様される形状。cyam rectaやcyma reversaが相当します。ogeeはゴシック建築の窓枠で良くみられる形状でもあります。
dentil デンティル
By Tim Evanson from Cleveland Heights, Ohio, USA – dentils – Cleveland Museum of Art, CC BY-SA 2.0, Link
dentilは四角いブロックの連続で構成されるモールディング。コーニスの下部:ベッドモールディングの構成に使われることが多い。
モールディングの選び方
プロポーションで選ぶ
モールディング選びを失敗させないコツは、部屋全体のプロポーションから逆算したサイズ選びをすることです。デザインやモチーフを優先させてはいけません。プロポーションの決定はそれほど重要なのです。
この理由は、あらゆる西洋建築のあらゆる設計は「柱」を中心に計算されているためです。ですから柱を中心としたサイズの配分を確認することから始めます。
これがピンとこない方は、ぜひこちらを参考にしてみてください。▽
【施主必見】輸入住宅好きが知っておきたいプロポーションの知識
モールディングの素材
モールディングに用いられる素材は、石、コンクリート、木、ポリウレタンなどです。
輸入住宅に用いられる場合はほとんどの場合ポリウレタンが選ばれるでしょう。ポリウレタンは軽くて加工しやすく、対候性もあるため屋外でも使われます。
特段ポリウレタンで問題はありませんが、モールディングをステイン塗装するなど木目を見せるデザインにするためには、木材のモールディングを選ぶ他ありません。この場合ポリウレタンより高額になりますが木目ならではの素材感を楽しむことができます。
日本の一般住宅で石や石膏を選択するケースはほぼないでしょう。日本で石や石膏でできたモールディングを目にするのは明治時代以降に建てらた文化財級の歴史的建造物がほとんどです。欧米のプレステージ住宅では現在でも石や石膏でモールディングをオーダーメイドすることがあるようです。
写真:長崎県長崎市 旧オルト邸/ひび割れ方をみるとクラウンモールディングは石膏でできていると思われる。
良いモールディングと悪いモールディング
モールディングには伝統的なデザインルールを守って作られた良いモールディングと、守っていない悪いモールディングの2つがあります。
良いモールディング
写真:ORAC社製モールディング
モールディングは単純な直線と曲線を複雑に組み合わせた形状をしています。
一つ一つを分解して見ると、良いモールディングは直線や曲線の連続がうまく嚙み合ってリズムを生んでいることが感じられます。
具体的には、
- モールディングの形状にあるような形状を組み合わせている。
- 同じ形状でモールディングが連続していない
- 同じ幅でモールディングが連続していない。
- 強弱のメリハリがついた陰影がある。
良いモールディングを言語化するのは難しいのですが…
写真の例では、直線的な平面「fillet」を幅を広くしたり極狭い線のように配置しながら、曲線のcymaやscotiaも用いられています。このようなモールディングは全体的にメリハリがあって濃淡のある陰影作るので良いモールディングと言えるでしょう。
悪いモールディング
悪いモールディングの例(ケーシング)。平面的で陰影に乏しい。
一方悪いモールディングは良いモールディングの反対となります。
- モールディングの形状にあるような形状を無視した立体面
- 同じ形状でモールディングが連続している
- 同じ幅でモールディングが連続している
- 強弱のメリハリがなく陰影に乏しい
この中で特にわかりやすいのは「強弱のメリハリがなく陰影に乏しい」です。要するに立体感に欠けるモールディングで欧米のメーカーであっても思いの他多く取り扱っています。
これは1940年代以降、工業化が進み工場で簡単に大量に作ることができる形状のモールディングが好まれた結果だと言われています。そのため「彫り」が浅くなり陰影に乏しいためモールディング本来の役割を果たしきれていません。
こういったモールディングは総じてサイズが小さいという印象があります。コスパ重視なのかもしれませんが、モールディングはデザイン上極めて重要な要素です。
しっかり見極めて選んでいきたいですね。
まとめ
モールディングとは、天井、壁、ドア、階段、家具など室内外のあらゆる場所に用いられてる立体的な装飾材のことです。
モールディングの役割は、立体的な形で陰影を作り出しインテリアや家具、外装を光と影で装飾することにあります。
部屋に取り入れる際には、デザインやパターンよりもまずサイズ選びから始め、設置する場所に最適なサイズを選びましょう。
モールディングには悪いデザインのモールディングが存在します。悪いデザインのものはモールディングの基本的な形状をあまり考慮しないで作られているため、結果として上記の本来の役割を果たしていないことが多いです。
最後に、
悪いモールディングを選ばないためには良いモールディングをたくさん知っていることが一番の対策になります。良いモールディングは先人が造ってきた歴史的に名のある建物で見ることができます。そういう建物はネットに写真がたくさんあり大いに参考になります。
ハウスメーカーさんが進めてきたから…という理由だけで決められた範囲のカタログから選ぶのはもったいないです。そのカタログには良いモールディングも悪いモールディングが混在しているかもしれないのに、と思うからです。
良いモールディングを選ぶと家の魅力がさらに高まります!
人生二度なし。後悔しない家づくりにしたいですね!